2014年1月11日土曜日

日本とモルドバの「みんぱく」にある木

日本とモルドバの「みんぱく」にある木
 
日本の国立民族学博物館は東京、奈良、大阪、九州にある。「みんぱく」として親しまれている。
 
モルドバにも「みんぱく」がある。私はモルドバに訪問して一番最初に見たかったのは国立民族学博物館だった。そこには「知識の木」が展示されている。大人の3倍くらいの高さに創作された木である。博物館は博識にもとずいて歴史的な遺物が展示されるところだから「知識の木」はふさわしいと思っていた。
 
しかし、説明する人によるとこれは生命体の創造の順番に下の方から被造物の系列を木によって表現したのだから「生命の木」であるという人がいたのには驚いた。また、ロシア語で書いてあるパンフレットには「生命の木と書いてあります」とロシア文化人類学の研究者藤原潤子さんも訳しておしえてくれた
 
この話に決着をつけたのはわが川村容子さんである。彼女はルーマニア語を駆使して4時間にわたって民族学博物館で質問をし続けたのである。木のてっぺんには女性の彫像が配置されている。そして、すぐ近くには子宮に保護された木の実が表現されているのである。これは聖書を読んだことのある人なら誰でも知っている。「神はエデンの園の中央に生命の木と善悪知識の木を生えさせられた」と書かれている。
 
そして「善悪知識の木の実は取って食べてはならない」と戒めが書かれている。
 
これは子宮で表現される女性の貞操を守らなければならないという戒めである。モルドバでは昔、不倫の女性は馬に乗せられて村のさらし者にされていたという報告を聞いたとき、「では、不倫は女性だけで成立するわけではなく男性もいるわけだから、モルドバには男性に対する罰はないのでしょうか」と思わず質問してしまったことがある。
 
子宮があってはじめて子供を産むことができるわけだから知識の木は女性を象徴している。つまり、川村さんはそれを実証したのである。私はこのことを感動的に川村さんから聞いた。
 
川村さんは日本モルドバ友好協会の事務局長である。4時間かけて木の名前に決着をつけたことはすばらしいと思う。
 
ところで「生命の木」はどうなっただろう。
 
私は昨年、何度も車で神戸と東京を往来して大事な会議を続けた。そんな中、高速バスを利用したときのことである。
 
2013年10月15日台風26号が東京付近を襲った。伊豆大島では土石流が発生し35人が死亡。高速バスはもちろん新幹線もほとんどの鉄道も運休した。やむをえず1日遅れて高速バスに乗り込み神戸に向かった。
 
バスは京都から万博公園の付近を通って大阪にはいっていく時、私はカーテンの隙間から朝ぼらけの風景を見ていた。やがて太陽の塔が姿を現し、眼前に迫ってきた。そして思った。
 
数年後には太陽の塔の内部が公開されるという記事が新聞で報道されていた。その内部には「生命の木」が建造されているのである。まだ写真で見ただけだがこれが「生命の木」かと思うのは、生命体が誕生の時系列に従って克明に彫像されているのである。生命の木のてっぺんに男性の姿があるかどうかは写真ではわからない。
 
太陽の塔のふもとに国立民族学博物館がある。
 
かつてモルドバの芸術家が「知識の木」を造形した時の見果てぬ夢を岡本太郎という天才がインスピレーションで受けとめた言えるような気がしないでもない。日本とモルドバはつながった。(文:沓澤正明)

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