2012年4月9日月曜日

モルドバ滞在公式報告書(2012年3月11日~3月19日)


モルドバ滞在公式報告書

2012311日~319



モルドバ復興支援協会 報告者 鎌田 光希



私がモルドバという国を知ったのも、モルドバ復興支援協会とコンタクトを取ったのも、今から1年以上前のことだ。ぶどう、ワインの名産地として、インターネットで見つけたのがきっかけだった。




私は岡山でぶどう園経営をするための修行中の身だ。



そんな私がモルドバの為にできることは決して多くはないが、沓澤美喜氏(代表)は協会初めての農業関係のボランティア会員ということで、快く迎えてくれた。



今回、モルドバの農地や農家の様子、そしてなにより他国のぶどう作りを見たいということで、ようやく渡航することができた。今回わざわざ同行していただいた代表には、とても感謝している。

また、これまで伺ってきた話の登場人物、ライサさん、タマラさん、西川さん…そういった方たちと会えるのがとても楽しみだ。



311日 あらかじめ沓澤宅に送っていた古着をバッグに詰め込めるだけ詰め込み、関空へ向かう。



飛行機に乗り、出発前に渡された、数年前に書かれた沓澤正明氏の手記を読んだ。

改めて自分がなぜモルドバへ行くのかを考えた。

ボランティア活動なのか、それとも自身が他国の農業を知りたいからなのか。おそらくその両方だろう。農業で食っていきたいと考えて、この世界に飛び込み3年。まだたったの3年だが、これまで自分が教わった日本のぶどう作りは、世界でも最高峰の技術だと信じている。



312日 キシナウ空港に到着。



ゲートを出ようとするも、持っていた市松人形の箱のせいか足止めを食らいそうになった。先に待ってくれていたライサさんに助けられ、なんとか切り抜けることができた。

今日は我々とライサさん、西川さんで今回の予定の打ち合わせをする。西川さんはモルドバに住む日本人で、通訳という形でも復興支援協会に協力してくださっている。

今回の訪問で泊まるマンションに着き、昼食をとった。酸っぱいパンと、酸っぱいスープ。ここではありふれた料理だそうだが、酸味のある料理だけで腹を満たすのは初めてかもしれない。食卓で最初に目についたのは卓上の果物だ。ヨーロッパの人間はスナック感覚で果物を食べる、と教わっていたが、見たのは初めてだ。とりあえず写真に収めておいた。

西川さんの家に着くと、家族総出で歓迎してくれた。西川さんは仕事の合間にもかかわらず、我々の会話を通訳してくださり、忙しそうに行ったり来たりしていた。

結局、大まかなスケジュールの打ち合わせは決まったが、思っていたより遅くまでかかり、夕食までお世話になってしまった。

夕食は近所の有名な店のプレチンタだった。これもこちらではありふれた家庭の味だそうだ。見かけはパイそのままで、中身次第で食事にもデザートにもなる。面白い料理だ。

この日は帰ってすぐに寝てしまった。どうも思った以上に飛行機で体力を使ったようだ。



313日 前日、西川さんから言われたとおり、時差ぼけのせいでかなり早く目が覚めた。今日はカララシでブドウ農園と、ワイン工場を見る予定だ。



泊まったマンションの近くの駐車場でタマラさんと合流し、途中、西川さん、アレクサンドラ夫妻とも合流、車二台でカララシへ向かった。道中、犬や猫、鶏が道をうろついているのを見かけた。聞くと野良犬や野良猫で、鶏やあひるは普通、農家は皆飼っているものらしい。

実際、見学させていただいた一般的な農家の方の庭にも、鶏とアヒルが飼育されていた。モルドバでは日中は野放しにし、夕方には鳥自ら小屋に戻ってくるそうだ。

カララシでは、まずブドウ農園に案内してもらい、一通りのブドウの木を見せてもらった。

アレクサンドラ氏と、農園で働く青年がモルドバのブドウについての説明をしてくれた。

当然のことだがこの季節にブドウは生っていない。しかし、なんとなく1年の作業は推察できた。ここは私の働く岡山の山中、狭い土地を集めてできた温室よりも、はるかにスケールが大きい。日本は狭い農地ゆえに量よりも質を選ばざるを得なかった。モルドバでは量より質は望めないのだろうか…?

ブドウ園を見終え、次のワイン工場では24歳(!)のオーナーが待ってくれていた。

一通りの施設を紹介してもらい、ワインの試飲をさせてもらった。

私はアルコールに非常に弱い体質なのだが、これが不思議とスイスイ飲める。はっきり言って、今まで飲んだお酒よりもおいしかった。話を聞いていると、オーナーの青年は自分の作ったワインにとても自信があるように思えた。

彼はヨーロッパからの融資を受けて、工場内の機械、設備を新しいものに替えたいようだった。彼の自信ありげな口ぶりに、私は、彼は成功するだろうと思った。

昼食をとったレストランで、タマラさんとライサさんが少し前まで犬猿の仲だったということを初めて聞いた。それが今では同じ車に乗り普通に会話している。それは美喜さんのおかげだ、と、タマラさんが話してくれた。代表はどこでも「美喜さん」と呼ばれている。

この日はアレクサンドラさんの家に泊まることになっている。

私は夕食時に出されたワインで酔ってしまい、先に寝てしまっていたのだが、寝室隣の食卓では皆で盛り上がっていたようだ。美喜さんのような、言葉が分からなくても輪に入っていけるコミュニケーション能力が欲しいものだ。

私はと言えば、前日の西川さんの家でも緊張して肩がこわばっているのを西川さんの奥さんに笑われたほどだ。



314日 カララシからキシナウに帰る途中にある老人ホームを訪問した。



この老人ホームも復興支援協会、主に西川さんが支援している。各共用施設を見せてもらった。当然、どこも清潔にしてあるが、建物の老朽化は否めない。その後、入居している老人たちの集まる広間で美喜さんが折り紙をいくつか折って見せた。手先の運動がリハビリに適しているらしい。一通り折り紙を披露した後、各入居者の部屋を見せてもらった。

狭い部屋に一人か二人が入居しているようで、中には寝たきりの老人もいた。モルドバでは老人ホームに入所するには、子供がいると国からの補助がなく、全額払わなければならない。その額は年金だけでは到底賄えず、子供に頼るしかないのが現状だ。

老人ホームに勤める職員も、決して収入が高いわけではなく、本当に老人たちを思いやる気持ちがなければ、ここでは働けないのだろう。

美喜さんが入居者と何か話そうとしている。言葉が通じなくても気持ちを伝えようとする姿は素晴らしかった。独りの寝たきりの老人に美喜さんは身に着けていたマフラーをかけてやっていた。老人ホームの所長が止めようとしたが、その眼には涙が溜まっていたように見えた。



315日 この日は農業大学を見学することになっている。



私は大学で生育しているブドウの木を見せてもらうだけと軽く考えていたが、なんとブドウの学部の教授と講師の方達と会い、話す場が設けられていた。教授から現在のモルドバのブドウの状況や大学の歴史について教わった後、講師の方に大学内を案内していただいた。

授業風景からワインセラーまで見せてもらい、

最後に講師の先生にブドウについて様々な質問をぶつけることができた。日本のブドウ作りとの差や、ワインについての基本的な話も聞くことができ、私にとっては有意義な時間だった。モルドバの人は、基本的に客が来ると昼夜問わずお手製のワインを勧めてくる。

当然のようにここでも勧められた。アルコールに弱い私だが、先日のワイン工場でのこともあり、 モルドバワイン=おいしい がすでに頭に出来上がっており、すぐに飲めてしまった。ここにきて、なんとなく味の違いが分かってきたような気がする。

昼食前、西川さんと別れ、午後からはバザールを見て回った。海外での青果がどのような形で販売されているのか実際に見てみたかったからだ。これも教わった通り、雑多に陳列されたものが多く、ブドウに至っては果実が潰れ、汁が飛び散っているのがほとんどだった。ここでは、というより、日本以外の多くの国ではこういう扱いが普通なのだろう。

少々の潰れや虫食いより、無農薬の方が重視されるのだそうだ。日本で無農薬栽培を志す就農希望者は海外での就農にも目を向けてみてはどうだろうか。



316日 カザネスティへは、子供デイケアセンターの見学が第一の目的だ。

(このカザネスティ「子供デイセンター」は今年度、高砂ロータリークラブから友愛奉仕活動助成金を受けて運営されている。)



校長室に着くと大柄の校長先生が迎えてくれた。校長先生は昨日行った農業大学の卒業生だそうで、モルドバの農業にも詳しかった。しかし、そんな彼も日本から毎年トラクターが支援されている、という話は知らなかったようだ。日本でも、支援を受けられる人間も末端の窓口の役人も知らない支援制度というのは結構ある。本当に支援を受けたければ自分で調べろ、ということなのだろうか。

しかし支援の存在自体を知らなければ、調べようがない。日本もモルドバも、支援する気があるのならば、周知徹底すべきだと思う。

昼食後、センターに通う子供たちに出会った。低学年から来年高校生になる生徒までいた。モルドバでは学生時の成績で生涯のキャリアが決まりうる。そしてその成績の多くを毎日大量に出される宿題が占めているようだ。こうなると両親が出稼ぎに行って家にいない生徒は、宿題を見てくれる保護者がいないので圧倒的に不利になってしまう。それを解消しようとカザネスティ「子供デイケアセンター」が設立された。

カザネスティ「子供デイケアセンター」では昼食も出て、先生も雇っている。生徒たちは元気もよく、仲が良さそうで笑顔で挨拶してくれた。私が見た感じでは、皆日本の生徒よりも落ち着きがあり、理知的な印象だ。

私の自己紹介の後、日本語の練習の成果を発表してくれた。俳句、歌、あいさつ、日常会話などだ。皆、たどたどしかったり、外人特有の変わった発音だったりで、見ていて初々しく、できることなら今後の上達具合も見てみたいと思った。

その後、日本から持ってきた市松人形を生徒たちに渡した。最初、子供たちが見たら怖がるんじゃないか、と思っていたが、杞憂だったようだ。人形を見たら、どことなく微笑んでいるように見えた。

私はインターネットで見つけたよく飛ぶ紙飛行機の折り方をみんなに教えた。私の折った紙飛行機も含めて、いまいち飛ばなかったようだが、皆楽しそうに遊んでくれたので、ホッとした。

帰り、門を出るとき、二人の生徒が先に門を開けて待ってくれていた。こういった気遣いが日本人と似通っていると感じた。



317日 今日は午前中、美喜さんとは別行動だ。



私はモルドバに住む日本人女性、直子さんと歴史博物館の見学に行った。道中私が、カララシにもカザネスティにも、拝見した家の中にはPCもありインターネットも通じているようで、抱いていたイメージと違った、と言うと、ネットにつないでいる家は中流以上の家庭だということを教えてもらった。

歴史博物館で写真を撮りながら進んでいると予想以上に時間が過ぎており、慌てて次の場所に向かった。昼過ぎからは美喜さんと合流し、モルドバで日本文化を教えているルチアさんと話をする予定だ。ルチアさんは喫茶店の一角を借りて、小さな子供たちに日本文化を伝えている。私と直子さんも一緒に途中参加し、子供たちと折り紙をして遊んだ。

それからしばらくして約束の時間から少し遅れて美喜さん達がやってきた。

今日はここで、ライサさんが教育分野のトップにいる女性たちを集め、美喜さんと会談する予定になっている。

ここから西川さんが通訳のヘルプに入ってくれるまで、片言の英語やジェスチャーで話し合うことになる。情けないことに私が割って入る余地はなかったのだが、美喜さんがこれまでこういう風にしてコミュニケーションをとってきたのだな、と感心した。しかし、その様子からはあまり良い雰囲気では無いことがうかがえた。西川さんに急遽来ていただいてからも、話はまとまる様子はなく、美喜さんもライサさんも感情をあらわにしていた。

美喜さんは女性たちへの支援金をどのように使うかを話し合いたかったようで、進めたい案件があれば発表してくれと言い続けていたが、ライサさんをはじめ、集まった女性たちは、今後そういったことを話し合う為の事務所を借りたい、と言って終始平行線のようだった。結局議論がヒートアップしすぎたため、西川さんの提案で今回はお開き、ということになった。その時には美喜さんとライサさんは険悪な雰囲気になってしまっていたので、マンションまで二人と一緒に帰る身としては少々辛かったのは否めない。その帰り、美喜さんが、帰る間際にはいつも喧嘩してしまうけど、またモルドバに来るときには仲直りしてるの、と話してくれた。感情のぶつけ合いもたまには必要なようだ。

明日は近所のバザールを見て回り、昼食をライサさんの家でとることになっている。



一週間もあっという間、すでに名残惜しく感じてしまっている。



318日 今日の予定は夕方に飛行機に乗り、帰るだけだ。



それまでお土産を買いに回ることになった。ここに来れば食料品から家具まで、何でもそろうという近所のバザールにやってきた。日本へのお土産や変った紅茶を買い、一通り見て回った。なんとなく雰囲気が三宮の高架下に似ていると感じた。私はこの雰囲気が大好きだ。全部見回りたかったが今日は時間も体力も足りなかったようだ。

その後ライサさんの家に昼食をご馳走になりに行った。ライサさんの家は大家族で、ライサさんのお母さんからお孫さんまでが住んでいる。二人の小さな子供が所狭しと走り回っている様子を見ていると自然と口元が緩んでしまった。にやけているのを見られたのか、子供は好き?と聞かれ、はい、好きです。と答えた。正直なところ子供と接するのは苦手だ。しかし、子供の元気な姿を見ていると嬉しくなるし、知り合えた子供たちには幸せになってほしい。それが日本人でもモルドバ人でも同じだ。

もし、モルドバに日本ほど子供が成功する機会が少ないのなら、それはとても残念なことだ。



帰りの飛行機に乗り込むと、途端に日本が恋しくなった。不思議なもので、一週間程度の旅で日本食に飢えることもなかったが、帰るとなると家の自室に帰りたくてたまらなくなった。疲れていたためか飛行機に乗り込むとすぐに眠ってしまい、気づけばイスタンブール、気づけば関空だった。どうやらこの旅を通して、私が一番不便に感じ一番疲れたのは往復の飛行機だったようだ。



以上が、支援活動の一環として見て回った場所の報告となる。

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