
モルドバの薬局は特徴があります。薬局は街のあちこちで見かけます。地方都市に行ってみても薬局は身近にあります。薬剤師はとても権威があって患者が薬を買いに来たら、症状を聞いて処方してくれます。薬局はガラス越しに患者と薬剤師が話します。患者が自分で薬を選んで自由に買える日本のドラッグストアのようなものはありません。私は最初薬局へ行ったとき「薬剤師はドクターとそれほど変わらない権威があるのだ」と思いました。
ところがそうではありませんでした。
私は沓澤美喜理事と一緒に入院していた著名な教育者にお見舞いに行きました。そこは医科薬科大学の向かいにあるモルドバ最大の国立病院の病室でした。大きさから言えば日本の慶応病院の何倍もあります。旧ソ連時代に建設されました。病気になればだれでも無料で診察を受けることができます。医療費が無料だなんてすごいと思いました。でも、それもすごいことではなかったのです。
モルドバの医療事情や薬局事情がだんだん分かってくると感心ばかりしていられなくなってきました。病院ではドクターが患者を診察して処方箋を書いたら終了で、患者は処方箋を持参して薬局へ行って薬を買い、自宅で治療するわけですが診察は無料でも実際には薬を購入する時に治療費が必要になります。現実には多くのモルドバ人は病気になっても病院には行かないで直接薬局で薬剤師に病状を言って薬を処方してもらっています。
それでもどうしても病院の治療が必要だと考える場合は「ウクライナに治療に行ってきます」とか「ルーマニアに治療に行ってきます」と言っていました。つまりモルドバの病院へは行こうとしないのです。ところが最近は誰もウクライナやルーマニアに治療に行ってきますと言わなくなりました。理由ははっきりしています。モルドバの主要な病院に日本の最先端医療機器が納入されて、病院の治療水準があっという間にウクライナやルーマニアの治療水準を超えてしまったからなのです。モルドバの医学薬学の学術水準は充実していたのですが医療機器が旧ソ連時代のまま時代遅れとなっていただけなのです。
日本モルドバ友好協会の正会員である私の次男は京都薬科大学の卒業記念に7年前の春休みにモルドバを訪問しました。その時に私達のモルドバ側のカウンターパートであるモルドバ友好協会のバレリュー・サワ氏が次男をモルドバ医療薬科大学に案内してくれました。サワ氏はモルドバの著名な医師で医学の学術交流のために2回来日しています。スイスに本部のある国際医療機関の国際公務員です。その時に次男が目撃したのは学生たちが研究室で使っている医療機器、例えば顕微鏡が旧ソ連時代のものだったのです。「信じられないような時代遅れの環境でした」と感想を述べています。
2013年6月25日の日本経済新聞夕刊のトップ記事に「東欧に先端医療機器、ODAで輸出後押し、まずモルドバに MRIやCT」という5段抜きの大きな文字で見出しが出ています。それを読むと「東欧から旧ソ連にかけての旧共産圏では病院、医師がそろっている。今後、所得水準の向上に伴って、先端医療機器の需要が増大すると見込まれている」と書いてあります。
MRI(磁気共鳴画像装置)やCT(コンピューター断層撮影装置)は日本企業では東芝や日立製作所が強みを持っていますが、世界市場ではドイツのシーメンスやアメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)が大きなシェアを占めています。そのような競争の中で日本の最先端医療機器がモルドバの主要な病院に納入されましたのでいまやモルドバは医療水準が急にヨーロッパやロシアから注目されるほど向上したのです。どうやらモルドバの医科薬科大学にも日本の最先端医療機器が納入されたようです。
日本企業のモルドバへの医療機器納入はアベノミクスの大成功と言えるでしょう。プーチン大統領も安倍首相と会うたびに日本の最先端医療機器をロシアに導入したいと何度も要請しています。
画像は日本経済新聞2013年6月25日掲載されたものです。(文:沓澤正明)
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